入れ歯生活

保険適用入れ歯の製作の流れ(部分入れ歯)

完成した入れ歯

入れ歯といっても種類や作り方は様々です。使用する材料、保険で作るのか、自費で作るのかなどの違いで費用や完成までにかかる時間も変わってきます。
「入れ歯って誰がどこで作っているの?」「入れ歯が完成するまでになぜ時間がかかるの?」などの疑問を持っている方は多いと思います。よく噛めて違和感の少ない入れ歯を作るためには、一つひとつの工程を丁寧に積み重ねていくことが重要で、入れ歯の質に違いが生まれてきます。ここでは細かい工程は省略していますが、一般的な部分入れ歯ができあがるまでを写真とともにご紹介していきます。疑問の解消のお役に立てればと思います。

入れ歯ができるまで

歯科技工指示書と咬合器

歯科医師が歯科技工指示書とよばれる用紙に、患者さんの名前、性別、年齢、入れ歯の設計など必要な情報を記入します。良い入れ歯を作るためにこの指示書の情報がとても重要になってきます。患者さんの噛み合わせと顎の動きを再現させるために咬合器と呼ばれる装置に型取りをした模型を付着します。


金具作成前の歯の模型

ここからは入れ歯を支える金具を作っていきます。歯の模型に黒い線が引かれているのがお分かりでしょうか?歯科技工指示書に描かれていた設計を模型に書き写した線です。その線に合わせて金具になる材料を貼り付けていきます。


金具の材料を張り付けた歯の模型

写真は金具になる材料を模型の線に合わせて貼り付けた状態です。この状態ですと貼り付けた材料は柔らかいため特殊な光を当てて固めていきます。


入れ歯の金具作成前

模型から金具となる材料を取り外し、金型にするための準備をしていきます。


金型にから作った入れ歯の金具

そして、金型に高温で溶かした金属を流し込みます。流し込んだ金属が冷え固まったら金型から取り出します。


磨き上げる前の金具

金具を切り離し、一つひとつきれいに磨きます。


磨き上げた金具

このようにピカピカに磨くことで、汚れが付きにくく舌触りも良くなり、異物感を軽減させることにつながります。


咬合器に取り付けた作成前の入れ歯

きれいに磨いた金具を模型に戻して人工の歯を並べていきます。この人工の歯も歯科技工士が一つひとつ噛み合わせや、見た目のバランスを考えながら天然の歯が本来生えていたであろうとされる位置に並べていき再現させていくのです。


噛み合わせ調整が終わった入れ歯

歯を並べ歯ぐきを付けて噛み合わせの調整が終わりました。これで入れ歯の完成…ではありません。見た目は完成したかのように見えますが、歯ぐきの赤い部分(実はワックスです)をプラスチックに置き換える作業をしなくてはいけません。


歯茎の部分をプラスチックに置き換えた入れ歯

プラスチックに置き換える前とプラスチックに置き換えた後です。


最後の磨き上げ前の入れ歯

プラスチックに置き換えた後、歯ぐきの色がよりリアルになったように見えますね。ここまできたら最後に再びきれいに磨いて完成となります。


磨き上げて完成した入れ歯

きれいに磨かれた入れ歯ができました。この状態で歯科医院に届けられ、患者さんのお口の中に装着されるのです。

入れ歯を長く使い続けるために

歯医者さんで定期的なメンテナンスを!

株式会社TMP 森川 技工士

入れ歯を良好な状態で使い続けるためには、歯医者さんで定期的にメンテナンスを受けることが大切なのではないでしょうか。入れ歯は主に金属とプラスチックで出来ているため、使い続けているうちに金属疲労やプラスチックの擦り減りが起こります。また、入れ歯そのものが劣化していなくとも、加齢やそのほかの原因により、患者さんご自身の口腔環境は変化していきます。そのため、お口にフィットするベストな状態を保つには、ご自身の歯や入れ歯を支える骨、歯ぐきの形態の変化に合わせて定期的な微調整を行うことが必要なのです。


そこでお願いしたいのは、定期的な歯科検診と併せて「歯医者さんに行くことを躊躇しないでほしい」ということ。定期検診で入れ歯とお口のメンテナンスを受けることはもちろんですが、違和感がある時には無理せず歯医者さんを頼ってほしいのです。「困っているほどではないけど、以前より入れ歯が合わなくなってきた」「入れ歯安定剤でやり過ごそう」そのようにお考えの方は少なくないと思います。ですが、早期のタイミングで不具合を調整できれば軽度な修理で済み、早くに快適さを取り戻せます。逆に違和感が強くなってから修理するとそれだけ調整に時間が掛かってしまい、最悪の場合は作り直しになることもあるのです。「小さな違和感」の段階で歯医者さんに足を運ぶか否かが入れ歯の寿命を左右するでしょう。


もちろん、来院は定期検診のタイミングでなくても大丈夫。歯医者さんはいつでも受け入れてくれますよ。入れ歯のためにも、ご自身の歯を守るためにも、そして身体の健康のためにも、是非とも定期検診を習慣化させて下さい。


入れ歯作製への想い

お口の中は「感覚のセンサー」が集中する繊細な器官。髪の毛が1本入っているだけでも不快に感じるほど繊細です。それだけに、入れ歯は「よく噛める」機能面のよしあしはもちろんのこと、見た目や発音にも大きく影響するほか、入れ歯の出来次第で患者さんのお気持ちまで変わってきます。


そこで、入れ歯づくりに重要となるのは先生からの「患者さん情報」です。年齢や性別、残っている歯の本数などはカルテや歯型から得ることができますが、ご使用になる患者さんの風貌や好み、生活習慣などはわかりません。例えば「女性らしい小さな前歯にしたい」「ゴルフが趣味で食いしばる癖がある」「硬い食べ物が好み」など、どんな些細なことでも構いません。これらの情報が患者さんのライフスタイルに沿った入れ歯づくりのヒントになるのです。


わたしたち歯科技工士は、直接患者さんとお会いする機会がほとんどありません。だからこそ、歯型からは得られない情報が必要です。ですから、入れ歯を新調する際にはできるだけ多くのリクエストをご担当の先生にお伝えください。私たちは先生からの情報をもとに、患者さんの使用する場面を想像しながら可能な限りご希望に沿った入れ歯を作製していきます。


入れ歯は身体の一部、人工の臓器です。失ったお身体の一部を修復し、心身ともに快適にお過ごしいただきたい。そのような想いで製作に励んでいます。

製作取材協力
株式会社TMP(千葉県)

歯科技工士 森川